小舟は聞きました
「乗るのでしょうか」
小さく頷きます
「乗りなさい」
河は聞きました
「何処に流れましょうか」
愛する御方の元へ
「流れましょう」
季節が訪ねます
「これから寒くなるのですよ」
祷りを纏います
「それなら私も祈りましょう。春が訪れますようにと」
霧が小舟に手をかけ言いました
「先の見えぬまま進むのかい」
手を引く方が居られます
「願います。冷たいこの手も引いて欲しいと」
夜がマントを広げて笑います
「これから私の夜となる、お前の寝倉は何処にある」
あの御方は言いました
『わたしには枕する処もない』と
けれど、わたしには
この小舟を寝床に、祷りを纏い
霧を枕と出来ましょう
河の流れに揺られるまま
命の朝を待ちましょう
「ならば闇のマントがお前を隠し、あの悪夢からお前を護ろう」
小舟よ、河よ、季節よ、霧よ、そして夜
感謝の代価は
この命
この祷り
さぁ、船出だ。
0 件のコメント:
コメントを投稿